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三重県総合博物館 > コレクション > スタッフのおすすめ > クマガイソウ Cypripedium japonicum Thunb.

クマガイソウ(Cypripedium japonicum Thunb.


クマガイソウ
和 名  クマガイソウ
学 名  Cypripedium japonicum Thunb.
資料番号   MPMP 28751
分 類  種子植物門 単子葉植物綱 
 ラン科 アツモリソウ亜科
採集年  1950 年
採集地  三重県阿山郡大山田村 (現・伊賀市)
資料形態  さく葉標本

クマガイソウ(さく葉標本)
解 説

 クマガイソウは北海道南部から九州に生育する草丈20~40cmほどのラン科の多年草です。扇のような2枚の葉の間から花茎を伸ばし、先端に袋状の花を一輪咲かせます。おもに山地の樹林内、特に杉林や竹林などでみられます。比較的明るい林内を好むため、杉林や竹林が人の手によって管理され、間伐などが行なわれるような環境で旺盛に繁殖します。毎年、春になると地中を横に伸びる地下茎の先端から芽を出します。地下茎は1年ごとに数十cm伸びるため、群落は年々移動してゆきます。また、地下茎がたびたび分岐することにより株が増え、大きな群落を形成します。

ラン科は世界で約800属35,000種以上あるとされ、日本国内からは約75属230種が知られています。ラン科はほぼ世界中に分布し、さまざまな生育環境に適応することで、地域ごとに多様な種類がみられます。このようなことから、ラン科植物は単子葉植物では最も進化した植物と考えられています。
 
 ランの花は3枚のがく片(背がく片1枚と側がく片2枚)と3枚の花弁(側花弁2枚と唇弁1枚)があります(別図参照)。同じ大きさ形である側花弁に対して、唇弁は形や大きさ、色彩が大きく異なり、ランの花の特徴となっています。ラン科内のグループ分けについては、現在もいくつかの見解が示されていますが、一般的には、3枚の花弁がほぼ同じ形となり、唇弁が区別できないヤクシマラン亜科、唇弁が大きな袋状になるアツモリソウ亜科、その他がラン亜科に細分されています。ちなみに、日本産のアツモリソウ亜科では、2枚の側がく片は合着し、唇弁の背後に位置します。

クマガイソウの名前の由来は『平家物語』の名場面として知られる、一ノ谷の合戦における熊谷次郎直実と平敦盛の故事に由来します。力強く豪快なイメージの熊谷次郎直実の名をクマガイソウにつけたとされています。一方、クマガイソウの仲間にはアツモリソウもあり、こちらは可憐な花を貴公子である平敦盛にたとえたものとされています。どちらも、ふくらんだ唇弁を武者が背負っていた母衣(ほろ)に見立てたとされています。また、白っぽいクマガイソウの花を源氏の白旗にたとえ、赤いアツモリソウの花を平家の赤旗にたとえたとも言われています。

特徴あるラン科の花の形は、子孫を残すために進化したものです。クマガイソウの花には、袋状になった唇弁の前面中央に穴があります。マルハナバチなど昆虫が蜜を探してこの穴から入り込みますが、穴は魚を採る「もんどり」のような構造のため戻ることができず、上部にあいた別の穴から外に出ることになります。上部の穴は狭く、出ようとする昆虫が、雄しべと雌しべが合着したずい柱の下をすり抜ける際、その背中に花粉がつきます。この後、昆虫の背中についた花粉は他の花に運ばれ受精し、種子ができるという、実に巧妙な仕掛けとなっています。

植物の花や葉などはさまざまな色や形をしていますが、これには何かしらの理由があるものです。じっくり観察すると、必ず面白い発見があるはずです。(M)


袋状の唇弁が特徴的な花

クマガイソウの花(さく葉標本)

杉林内の群落
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