アカマダラコガネは、濃い赤褐色の体に黒いまだら模様が特徴的な体長20mm前後のコガネムシです。(写真1)
アカマダラコガネは、日本、済州島、朝鮮半島、シベリア東部、中国、モンゴルと広く分布し、国内では、北海道南部、本州、四国、九州、屋久島で見られます。三重県内では、菰野町、鈴鹿市、伊賀市、津市、松阪市、伊勢市、志摩市で確認されています。低山地から丘陵地の雑木林に生息します。成虫は夏の終わりに出現しそのまま越冬して、春から夏にかけてクヌギやコナラの樹液に集まります。
アカマダラコガネの幼虫期の生態については、これまで長い間謎でしたが、 平成16年に幼虫がタカのなかまであるハチクマの巣から採集されたことが、初めて報告され、ワシタカ類の巣の中で生育することが明らかになりました。
さて、 今回紹介するアカマダラコガネの標本は、伊勢市在住で鳥類を中心に幅広い研究業績を残された故橋本太郎氏のコレクションの一つです。この個体の標本ラベルには、採集日は「1955・8」採集場所等は「朝熊 飼(伊勢市朝熊で採集して飼育?)」「サシバの巣上のもの」と書かれています。また、同じ標本箱の中には、「1955・8」「アサマ」と記載された標本ラベルがついた3点の蛹室(ようしつ)があります。蛹室は、コガネムシ科などの昆虫がサナギになるときにつくる小さな殻状のもので、3点の蛹室は、いずれも細かい繊維状の物質や木の細片を含んだ灰褐色の卵型をしています。今から50年以上前に橋本氏は伊勢市朝熊でサシバの巣上から蛹室を採集され、その内のひとつの中にいたアカマダラコガネの蛹を羽化、飼育されたものと推測されます。このサシバの巣での発見は、ワシタカ類の巣中での成育実例として現在でも大きな価値をもっていますが、その当時に発表されていたら、アカマダラコガネの幼虫期の特異な生態がもっと早く解明されていたことでしょう。
1980年代以降、三重県では、アカマダラコガネの生息記録が少なくなり、三重県のレッドデータブックでは、準絶滅危惧種とされています。その減少の原因としては、雑木林などで構成される里山林が開発や生活様式の変化によって減少したことやそれを受けてワシタカ類が生息域を狭められたことなどが考えられます。多くの生きものが互いに関係しながら生活を営んでいる里山の環境を保全していくことが大切だと改めて感じます。(I)
|