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平成21年04月16日

三重の文化

第57回県展 審査評

大賞審査評

 日本人なら誰でも見慣れた「鯉のぼり」の写真である。しかしこの作品はいうにいわれぬ現実を超えた鯉のぼりの力強さが私たちを圧倒する。あの五月晴れに映える錦の鯉がカラー写真でなくモノクローム写真ゆえに、私たちの想像神経をくすぐる新鮮さなのかもしれない。また鯉のぼりを尾の側から捕らえた構図によるのかもしれない。確かに被写体、構図、シャッターチャンス、何よりも撮影者のセンスがみごとに一致した秀作であることに間違いはない。しかし、実はこの作品の隠れた主人公、すなわち鯉をこれほど豊かに泳がせている「風」の名演技であることも忘れてはならない。風、自然というメッセージがこの作品の品性であろう。そしてさらに、この何の力みもない素直な写真を賞賛し、写真分野の表現に忘れかけていた新たな可能性を目覚めさせた第57回三重県展、日本画、洋画、彫刻、工芸、写真、書の6部門全体の審査の快挙であることも。

古川秀昭(大賞審査主任/彫刻部門審査主任)


日本画部門審査評

 本年の目立った特徴は、大作揃いだということ。ただ大作イコール力作とは一概にいえないことも確かである。先ず制作以前に、作品に対する構想をもっと練る必要があるのでは? ただ単に自己の思いつきだけで制作するのではなしに描こうとする対象ともっと対話を繰り返し、どのように表現すればもっと良い作品になるかを考えて欲しい。そしてデッサンをしっかりやって頂きたい。今回は人物画や人物を配した作品が多かったが、人物表現にはデッサン力が不可欠である。

 応募作品は昨年より若干増加したが、展示面積の関係上、入選数は減少という厳しい状況であった。その中で私たち審査員一同は、たとえ画面に破綻があったり、技術的に稚拙であっても、清新でひたむきな作品を見出そうと努めた。型にはまらず素直な作品に出会った時は、一同大いに喜び、高得点を得たようである。

 最優秀賞の「最終便」は画面一杯に描かれた電車が実に力強く、今にも画面から観る者の前にまで近寄ってきそうな迫力で圧倒される。現代の様相を日本画の世界に持ち込んでいるのも斬新である。

 優秀賞の「風韻」には淡雅な画面から時間の流れが伝わってくる。“はにわ”たちの表情も豊かである。また同じく優秀賞の「掘り出し物」は群像を日本画の世界に持ち込んでいるのも斬新である。

 出品者の方々にはあれも描こう、これも表現したいという気持ちが強いせいか(その気持ちは充分理解できるが)、画面に余分なものが多いように見受けられた。これがなければもっと良い作品になったのにと惜しまれるものが多数あった。

日本画部門審査主任 山﨑 隆夫 (代筆:塩川 京子)


洋画部門審査評

 昨年度より出展数は33点減少したが、入選率は他部門と比し非常に厳しく40%にとどまった。審査員の支持がありながら選外になった作品も少なからずあり、展示スペースがあればと惜しまれる。出品作品は近年の傾向を反映してか抽象作品が多数を占め、具象作品が減少傾向にあり、具象作家のより一層の出展が望まれる。

 「最優秀賞」の石川勉<世相を視る>は淡いピンクの混ざった白をぬり重ねて、空白でない何かを感じさせ、下部のグレーの輪の存在を何げなく見せている。「優秀賞」2点のうち山家孝美子<意識>は研ぎすまされた黒い線を細やかな神経で描線され、一つの空間を表出して好感のもてる作品である。また齊藤幸子<おいらせ>は色彩豊かな表現の中にしっとりとした調和と躍動感が見る人に心地よさを感じさせる。「三重県市町会長賞」岩名泰岳<my-scene 05-11>は昨年に続いての受賞となったが、白い布に墨をたらした画肌は今年も支持され、若い世代に勇気を与えることとなった。今後の発展に期待したい。「中日新聞社賞」上田慎二<睨>はカラーコピーなどを利用した複合的技法で表現した画面一杯かえるは迫力満点で今後の氏の創作の発表に期待したい。「すばらしきみえ賞」本間舞<守ってあげたい。>は作者が子どもになって描かれたような新鮮な感動をよぶ作品である。「岡田文化財団賞」奥村安久<経典>はボール紙の筒の表面に描線したものを並べた新鮮さが支持された。氏が長年にわたって制作されてきたこの作品が新人奨励賞に選ばれた意義は大きい。

洋画部門審査主任 中村 映弥


彫刻部門審査評

 どこの県においても彫刻部門の出品数は少なく、さらに減少化の傾向にある。また度肝を抜かれるような作品が見当たらず、穏便な作品化も県展一般に共通することである。しかし今年、三重県展では昨年を上回る応募数があり、その質も具象抽象問わず意欲的でかつ完成密度の高い作品が多かった。

 最優秀賞受賞作「未来へ」は、この地域では馴染み深い「木」を作り手が削ったり、磨いたりした木の表情と、人の手が加わらない枝そのものを組み合わせて、不思議な造型を構成している。一方優秀賞を受賞した「アカシ」は黒御影石の割り肌と磨きの味わいから重量感を十分に生かした作品となっている。同じ御影石を使って三重県町村会長賞を受賞した「VIsual and moition」は、外形を厳格な長方形で囲み、内側に磨かれた曲面を見せることによって思いがけない石に潜在する生命力を暗示している。

 昨年の彫刻部門最優秀賞を受賞した作家は今回は「風を招く庭」で自然の恵み賞を受賞している。彫刻に色彩を取り入れた独自の連作が注目された。中日新聞社賞「風化するかたち05」は作家の安定した人体表現追求に対する賞となった。岡田文化財団賞「Remember」の作者は技術や構成力に未熟さは免れないが、作品の発想と表現意欲には真摯な姿勢が見られ、今後の制作展開が期待される。

 今回の応募作品には、作品の構成や設営の面で、表現手法に説明過剰なものが多くみられて、今後は作品そのものと観る者とをもっと信頼する大らかさがあっていいのではないだろうか。

彫刻部門審査主任 古川 秀昭


工芸部門審査評

 工芸部門における作品出展数は104点で、昨年を10点上回ったと聞く。事務局から提示された工芸部門の限度数を目標に、入選作品を選定したところ48点になり、さらに最優秀賞をはじめ7点の入賞作品を選出した。最優秀賞に選ばれた「宇宙(コスモス)」は、空洞の球体状に造形された陶作品で、真っ黒な内面が所々に開けられた破れ穴からのぞき、表面は白黒の釉薬によってシンプルな色合いと細かなディテールによって構成されている。伝統的な技法や表現の多い陶芸の中で、きわめて現代的な造型表現がなされたことが評価された優作である。全審査員からの高い支持を受けて選ばれた。県議会議長賞の「練込花文花器」は、練込の技術を用いた深鉢で全体に散りばめられた3種類からなる花文の配置と生地との色合い、フォルムが美しく目を惹いた。教育委員長賞の「柿と神代杉短冊箱」、岡田文化財団賞の「拭漆欅楕円大鉢」は、いずれも伝統の木工技術を駆使した作品で、制作に取り組む作者の姿勢が感じられる力作である。後者は、新人奨励の意味を込めて岡田文化財団賞に選定した。中日新聞社賞の「乳白釉掛分花文鉢」は、ロクロ挽きの端正なフォルムに2種類の白釉を掛け分け、鉢の内部にイッチン技法で細かく伸びやかな花弁が描かれた暖かみを持った作品である。市長会長賞「草木染織り(ガリバー・イン・ワンダーランド 2005)は、素材の色を植物染料から得たもので、額装仕立ての平織り作品ながら現代風に構築され、レリーフ状に表現するなど平面作品に終わっていないところに好感が持てた。すばらしきみえ賞の「組紐(静寂)」は、伝統技術の残されている土地柄の作品で、紐という限られた場所に独特の技術で柔らかさを感じる表情豊かな表現が見て取れ、すばらしきみえ賞に選定された。相対的に陶芸作品の割合が多かったが、これも地域的特色との印象を受けた。そして、審査員の目を惹く数点の作品が審査開始当初から感じられ、当然のように最終の入賞作品の中に選ばれたように思われる。願わくは、今後、陶芸以外の分野か・轤煢桾蛯ェ増えることを期待したい。なお、最優秀賞作品「宇宙(コスモス)」は大賞審査にノミネートされ、グランプリには及ばなかったものの、わずか4票差の2位であったことを付記しておきたい。

工芸部門審査主任 桑山 俊道


写真部門審査評

 三重県展は57回を数え、写真部門も毎年充実した作品が寄せられています。今回は432点ということで、他部門よりも圧倒的に数が多く、限られたスペースに展示するため入賞者を絞るのにとても苦労しました。結果として、水準の高い作品が残ったと思います。

 ただ残念なことに、全体的にしっかりとした堅実な作品が多いのですが、飛び抜けて面白い作品は見当たらなかったようです。やや保守化、マンネリ化の傾向があるのは否定できないことでしょう。

 その原因を考えると、一点応募ということで、最終的な作品の選択をクラブの指導者の方に委ねてしまう場合があるのではないかと思い至りました。そのため、統制はとれるのですが、個性的な取り組みが目立たなくなっているようです。何を応募するかの決定は、最後まで自分で行うという姿勢を貫くべきだと思います。「何を伝えたいのか」を自分で明確に認識している作品の方が、結果的には強いものになるはずです。

 入賞作品のレベルはかなり高いものでした。最優秀賞の巌佐準次さんの「五月の風」は、風をおなかいっぱいに孕んだ鯉のぼりがテーマです。ふくらんだおなかが、躍動感と生命力を感じさせ、見慣れた風景から新鮮なイメージを引き出しています。

 県議会議長賞の牛場和美さんの「男」も、モノクロームのくっきりした風景描写が印象的な作品でした。大きな子どもの顔の看板と、その後ろの小さな男の顔とのコントラストが鮮やかで、ちょっとシュールな雰囲気があります。

 岡田文化財団賞の西村康夫さんの「成人の日」も、面白い場面をとらえたスナップショットの傑作です。成人式の晴着の女性たちの後ろ姿の列が、何だか羊の群れのようでユーモラスな効果をあげています。

 次回にはもっと意欲的な作品が増えてくることを、期待をこめて願っています。

写真部門審査主任 飯沢 耕太郎


書部門審査評

 本年度の出品数は、漢字133点、仮名26点、調和体29点、篆刻5点の計193点で昨年より約20点少なくなったのは寂しい思いがした。

 全体的にみて類型的な作風から個性表現への挑戦に取り組んでいる傾向が窺えることは喜ばしいことである。たとえ師風による類型的な作風であっても、そこに根差す古典に創意を加え、「守破離」の精神を守り、進むことが大切である。そして、ただ単に枚数を多く書くだけでなく、用筆や墨色の研究、運筆のスピードの変化、抑揚から生まれるリズム感などの工夫の積み重ねが格調高い作品を生む。「作品の優劣は練習量に比例する」とか「継続は力なり」と言われるように、終結のない基礎的な習練を続けることが何よりも大切なことを痛感した。

 最優秀賞の藤井幸堂さんの作品は、厳しい筆先の動きが小粋な造型に、感性を閃かせ磨き上げた行書作品。優秀賞(県議会議長賞)の小川匪石さんの作品は木簡を基調とした単体でありながら素朴でリズム感を漂わせた秀作。優秀賞(教育委員長賞)は六朝時代の造像記を基調とし豪快なタッチで鑑賞者を圧倒させる作品である。

書部門審査主任 樽本 樹邨

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